1,ドル建ての終身保険とは
2016年にマイナス金利導入されてから、銀行預金の金利は史上最低水準となりました。住宅ローン商品なども仕事として取り扱っていますが、銀行から融資を受ける消費者にとっては夢のような金利水準となっています。反対に預金している側からすると利息がほとんどつかないため、日本円で銀行に預金しておけば、手数料などでむしろ赤字になってしまうケースもあるでしょう。
そんな時代背景があってか、利率の高いドル建ての終身保険が注目を集めはじめ、多くの保険会社もドル建ての商品を開発してきています。今回はそんなドル建ての終身保険の仕組みからメリットデメリットなど解説していきたいと思います。
ドル建ての終身保険は、保険として入るよりも、貯蓄を少しでも増やす目的で加入されるケースが多くなっています。そのあたりの仕組みからご説明します。
2,そもそも終身保険の仕組みは?
まずは通常の終身保険の仕組みを見てみます。
【用語の解説】
死亡保険金額:契約者が死亡あるいは高度障害に該当した時に支給される保険金額
25才:終身保険に加入し保険料を支払い始めた
65才:終身保険の保険料支払いが終わる年齢
解約:保険をやめること
解約返戻金:保険を辞めた時に返ってくるお金
保険料:保険に対する毎月の支払い金額
終身保険とは読んで字のごとく、「身が終わるまで続く保険」です。つまり保険が一生効いている保険という意味です。人はいつかは必ず亡くなりますから、終身保険の保険金はいつかは必ず受け取れるという事になります。
一方で、保険金が一定期間のみ効いている商品を定期保険と言います。こちらも読んで字のごとく、期間限定の保険という意味です。65才までなど期間が決まっていますのでその間に万が一がなければ保険金を受け取ることはありません。
保険は定期か終身かで保険料がかなり変わります。保険会社としては終身保険の場合、将来必ず保険金を支払う必要がありますからそれなりの保険料を貰っておく必要があるからです。
終身保険のもう1つの特徴は、解約返戻金があるという点です。解約返戻金は保険を辞めた時に返ってくるお金です。積立金のようなものです。一般的な終身保険の解約返戻金は支払い期間終了時(上の図で65才時)に解約返戻金を受け取る場合、支払った保険料総額が戻ってくるものが多いです。
つまり終身保険は保険を効かせながら、最終的には保険金か支払った総額保険料に近い解約返戻金どちらかは必ず受け取れるという仕組みになっているのです。
3,終身保険でも損する場合がある
終身保険は、普通は損しない保険です。元気に老後を迎えたとしても支払った保険料総額以上が戻ってきます。また保険金もいつかは必ず受け取れます。
しかし、終身保険でも損する人はいます。
払込期間満了前に解約した場合損です。実は保険会社にとって一番利益率が高いのは契約者が途中で終身保険を解約した場合なのです。
支払った保険料累計に対して、いくらの解約返戻金があるかのレートを解約返戻率と言いますが、解約返戻率は初めは低く、だんだん上昇していき、払込期間満了と同時にほぼ100%になる設定になっています。
途中で解約した場合支払った保険料総額よりもかなり低い金額しか返ってきません。
終身保険を支払い期間満了前に辞めるのは損になりますので、注意して下さい。どうしても支払いを止めたい場合は払い済み処理することで、支払った保険料を生かして運用し続けることが可能です。
解約しないようにだけ気をつけておけば問題ありません。
4,ドル建ての終身保険とは
「ドル建ての終身保険」と聞くと非常に複雑なイメージを抱くかたもおられるかもしれません。
仕組みは終身保険と全く同じですが、通貨が違います。日本円ではなく全てドルで取引することになります。
保険料、保険金、解約返戻金などは全てドルでの支払いや受け取りとなります。ドル口座は必要ありません。契約者は日本円で支払うことができます。その代わり、ドル円相場の変動により毎回日本円で支払う金額は変わってきます。
注意点として、毎月の保険料が定額ではないという点です。例えばドル建ての終身保険の保険料は、毎月300ドルというような支払い方となります。
【1ドル100円なら】300ドル×100円=30,000円
【1ドル110円なら】300ドル×110円=33,000円
というように、毎月ドル円相場により支払い保険料が変わる点に注意が必要です。いきなりドル円相場がいきなり10円変わるケースはそうそうありませんが、長期的に見れば十分ありえます。
5,解約返戻金はドル円相場により激減する可能性がある
ドル建の終身保険の場合、解約返戻金もドルでの運用となります。
当然、受け取り時には日本円として受け取る人が大半ですから、ドル円相場によって日本円での受け取り金額は変動します。
ドル建ての終身保険のメリットとして、金利が高い点が挙げられます。外交員もその点を推している人が多いです。
しかし、実際には金利よりもドル円相場の方がはるかに影響が大きいです。
例えば、1万ドルの解約返戻金がある場合で考えてみます。
1ドル100円だった場合、1000万円受け取れます。
1ドル120円だった場合、1200万円受け取れます。
1ドル80円だった場合、800万円受け取れます。
受け取り時期により数百万円の差が生まれてしまいます。いくら金利が高いと言ってもドル円相場のリスクがありますから、確実とは言えない点がデメリットです。
とは言え、いつ解約するかは契約者が自由に決める事が出来ますから、円安(ドルの価値が高い)の時を狙って解約すれば逆に為替利益をさらに追加することも可能です。
ドル建ての終身保険で運用する場合は、使いようによっては大きなメリットがありますが、間違えると損してしまいますので、為替相場の知識は最低限必要でしょう。
6,「銀行よりはドル建て保険が良い」とは言うが…
マイナス金利で利息がゼロの銀行にあずける位ならドル建ての終身保険の方が、貯蓄を増やす事ができるのは間違いありません。
しかし解決策が保険しかないはずはありませんから、その辺りは冷静に検討するべきです。
そもそも銀行よりも増えない金融商品などありません。銀行の大きなメリットは安全性と言う面ですから、増える増えないの話になれば銀行と比較すれば殆どの金融商品が良いことになります。
保険は金利が高いと言っても、貯金に毛が生えたようなものです。
1000万円が1000万円のままか、1200万円になるかの違いです。200万円は大きいようですが、老後に1億円の資産が必要と言われている時代に保険でコツコツ積み立てたところで、老後資金の問題は何も解決出来ないのです。
貯蓄面だけで考えればドル建の終身保険は、「銀行預金よりいくらかマシ」程度の商品でしかありません。
今の時代、保険で老後に資金を貯めるのはナンセンスだと言うことです。例えば、定期預金に毎月5万円貯金してる人は、保険にした方が良いでしょう。しかし、保険で資産運用しているから大丈夫と言う考えは少し行きすぎた考えであることを認識しておく必要があります。
7,会社員であれば確定拠出年金や投資信託、不動産という選択肢も
会社員であれば、確定拠出年金や投資信託などを活用する方法もあります。
確定拠出年金は、運用益だけではなく、節税メリットもありますから、トータルで考えれば効率が良くなります。もちろん運用益がマイナスになる可能性も考慮しておくべきですが。
また投資信託は、初心者でも初めやすく、リスク分散型であれば大きく損するリスクを抑えることも可能です。
不動産投資は、もっとも効率的で確実に資産形成が可能です。ただし、安全に大きく増やしていくにはそれなりの専門知識が必要ですから、独学では難しいでしょう。
業界に長くいれば、誰でも分かることですが、保険外交員の欠点として、全員ではありませんが他業界の金融商品の知識が乏しい傾向がある点が挙げられます。リスクに備えるにしても、資産運用するにしても手段は1つではありません。デメリットを補完し合い、メリットを相乗的にする組み合わせで、資産運用していく必要があるでしょう。
保険は非常に、親近感がありますし、とっつきやすいですから多くの資金をドル建ての終身保険に入れる人もいますが、あくまでも手段の1つでしかありません。
どのような資産運用方法が自分にあっているのか、またお金を効率よく増やしていく事ができるのかは、幅広い金融商品の知識があるFPに相談するのがベストです。
1つの専門家ではどうしても、運用が偏る傾向にあるからです。
ご参考になれば幸いです。
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