1.確定拠出年金制度とは
確定拠出年金制度とは、日本版401kと呼ばれています。アメリカ合衆国の内国歳入法の条文が由来となっています。この制度では企業の従業員がお金を積み立てた際の税制上優遇を受けられることになっています。日本の確定拠出年金制度が出来たため日本版401kと呼ばれています。企業型と個人型がありますが、会社員が自分で掛け金を拠出する個人型に焦点を当ててその節税効果を検証したいと思います。
確定拠出年金制度の特徴は、自己責任型の資産運用である点と税制上の優遇がある点です。
1.自己責任型の運用方式
2.税制上の優遇がある
以上の2点が大きな特徴です。
2.公的年金制度との違い
確定拠出年金制度と公的年金制度の違いは、自分のために積み立てているかどうかが異なります。公的年金制度は仕送り方式といって、支払った保険料はそのまま年金受給者へ支払われます。会社員であれば毎月給与から天引きされていますが、厚生年金保険料は自分のための積み立てではなく、そのまま年金の支払いに当てられています。
確定拠出年金の掛け金は、完全に将来自分が受け取るための積立金であり運用結果も自己責任となっています。その点において確定拠出年金は公的年金とは性質が異なります。どちらかというと資産運用に近い性質を持っています。
またもう1つの特徴として税制上の優遇があります。確定拠出年金に拠出した掛け金は全額が所得控除の対象となり実質節税になります。また運用益が出た場合においても無税となってますので税金がかからないという点で他の金融商品にはないメリットがあります。
3.確定拠出年金制度の税制上のメリットとは
確定拠出年金制度の税制上のメリットは2点あります。1点目は掛け金が全額所得控除となる点です。もう1点は運用益に税金が掛からないという点です。
1.掛け金が全額所得控除
所得控除とは…
所得控除とは読んで字のごとく、「所得」を「控除」するという意味です。日本は累進課税制度を取っていますから、所得が多い人ほど所得税率は高くなり結果的に納税額は大きくなります。所得控除とは所得税がかかる対象金額から控除金額を引くことです。税金がかかる金額が減ることになりますから、控除金額が大きいほど税金が安くなります。確定拠出年金に拠出した金額は全額が所得控除の対象ですから、所得金額から掛け金を引いた分に所得税がかかると言うことです。
例えば、年間所得が500万円の会社員が銀行の普通預金に毎月2万円貯金をしたとして、その2万円は課税対象ですから総所得の500万円に対して所得税がかかります。
一方で同じく総所得が500万円の会社員が確定拠出年金に毎月2万円拠出したとします。その場合貯金とは違い、掛け金合計の年間24万円は、500万円から差し引くことができます。つまり500万から24万円を引いた476万円に対して所得税が掛かると言うことです。所得税が掛かる課税対象額が減額されますから節税に繋がると言うわけです。もし運用益が同じであれば確定拠出年金の方が節税分だけ有利になります。
もう1つは運用益に税金が掛からないという点です。通常は資産運用の種類によって課せられる税率は変わります。株式の配当利益であれば、配当所得、銀行預金の利息であれば利子所得と言うように利益が出た場合には何かしらの所得税が掛かるようになっています。
例えば利子所得には一律で約20%の税金がかかります。日本の銀行利息の場合は源泉分離課税といって銀行側が利子を支払う際にあらかじめ20%を差し引きますので、預金者は利子を受け取った時点で納税は完了している状態になります。ですから確定申告などは必要ありません。
投資による運用益にも利益が20万円を超えた場合には20%の所得税がかかります。しかし確定拠出年金で得た運用益は非課税となっていますので、所得税が掛からない点がメリットとなります。
4.確定拠出年金の注意点
何かとメリットが多い確定拠出年金制度ですが注意点もあります。
確定拠出年金(個人型)の注意点
1.掛け金の上限は2,3000円/月(公務員は12,000円/月)
2. 原則60歳まで引き出すことは出来ない
3,受け取り時には所得税の対象となる
4-1 掛け金の上限は23.000円/月
掛け金が全額所得控除となりますが、大きな運用は出来ないようになっています。毎月23,000円が上限ですから、年間の最大の掛け金は276,000円です。
全額が所得から控除されると言う点は非常に凄いことなのですが、この上限があることで片手落ちな制度になっているとも言えます。上限を決めておかなければいくらでも節税できてしまうため設定されている可能性があります。ただ会社員はそもそも節税手段が限られていますからメリットには変わりありません。
4-2 原則60歳まで引き出すことが出来ない
この点も要注意です。定期預金や生命保険の貯蓄商品であれば途中で引き出したり、解約して一時金を受け取ることは可能です。しかし確定拠出年金の場合60歳までは原則引き出しは出来ないようになっています。ですから中期的なお金を積み立てることは出来ません。結婚資金や車の買い替え代金、マイホームの頭金、教育資金など手元に置いておくお金とは明確に分ける必要があります。その点は他の金融商品とは違いますので注意が必要です。あくまでも老後の年金を積み立てると言う目的で利用するのが確定拠出年金と言うことになります。
4-3 受け取り時には所得税の対象になる
運用中には、掛け金が全額所得控除であったり、運用益にも税金がかからないなど何かとメリットがありますが、受け取り時にはしっかり税金がかかります。
もし受け取り時に丸々税金がかかってしまえば、運用中に支払わなかった所得税を最後にまとめて支払うことになり節税効果がほとんどなくなってしまう可能性もありますから注意が必要です。それではただの税の繰り延べになってしまいます。
税金は受け取り方によって変わります。
年金として受け取る場合は雑所得として扱われます。確定拠出年金を年金として受け取る場合、公的年金と合算した金額が雑所得となります。その合計金額に対して所得税がかかります。ただし公的年金控除額と言う非課税枠がありますのでそれを超えた分のみが課税対象となります。
公的年金と確定拠出年金の合計が350万円の場合、控除額を引いて225万円が雑所得となりますので、225万円に対して所得税が掛かります。
225万円の所得税は、225万円×10%ー97,500円=127,500円が納税額となります。
公的年金と確定拠出年金の合計額が雑所得となりますので、非課税枠を超えて税金が掛かる可能性はありますので注意が必要です。
確定拠出年金を一時金として受け取る場合、退職所得となります。退職所得とは会社の退職金をイメージしてもらえば良いです。退職金は給与と同じ位置付けになりますが、実は税金としてはかなり優遇されています。多くの場合退職金は老後の資金として活用しますから通常の所得税率を掛けてしまうと大きな負担になってしまいます。ですから退職所得には特別な計算方式が取られています。
退職所得の税金計算方法
(収入金額(源泉徴収前の金額)−退職所得控除額)×1/2=課税対象になる退職金の金額
となります。
退職所得控除は以下の表となります(国税庁HP)
一時金の総額から退職所得控除を差し引いて、さらに1/2に対して所得税がかかります。通常の所得税と比べてかなり納税がくは抑えることが出来ます。ただし会社員が確定拠出年金の一時金を企業の退職金と同時に受け取った場合、企業の退職金と一時金の合計が退職所得として扱われます。退職金と一時金別々に退職所得控除が使える訳ではありませんので注意が必要です。
企業の退職金と、確定拠出年金の一時金の受け取り時期をずらした場合でも、一度使った退職所得控除の分は差し引いて計算する必要がありますので一時金として受け取る場合には事前に計算して置いて方が良いでしょう。
ただし、退職所得控除は税率としては非常に低いですから、年金で受け取るよりも一時金として受け取った方が最終的な納税がくは少なくて済む可能性が高いことも考慮しておくべきです。
5.確定拠出年金の節税効果算出方法
確定拠出年金の節税効果がどの程度あるのかを、実際に試算してみました。課税所得と掛け金でそれぞれ分類しています。
確定拠出年金に掛けた全額が所得控除となりますので、運用中の節税メリットは大きいです。実際にどの程度のメリットがあるか自分の収入と比較してみて確定拠出年金を活用するかどうかの参考にしてみて下さい。
課税所得金額とは、総支給から給与所得控除や扶養控除、生命保険料控除などを差し引いて、最終的に残った所得税がかかる金額の事です。
会社員の方であれば源泉徴収票があると思いますので、そちらを見ていただければ自分の課税対象額が分かります。
5-1 課税対象額の算出方法
会社員の方であれば年末調整が終わった後、源泉徴収票をもらえるかと思います。自分が現在どの程度の所得税を支払っているのかや、自分の課税対象額などは源泉徴収票を見れば分かります。まずは自分の源泉徴収票を用意してください。
下の図が源泉徴収票です。
(①給与所得控除後の金額ー②所得控除の合計額)を出してください。例えば、給与所得控除ごの金額が450万円で所得控除の合計額が300万円だった場合450万円ー300万円=150万円となります。それが課税対象額となります。①ー②=課税対象額となります。
では実際に確定拠出年金をした場合の節税効果をチェックして見ましょう。チェックの手順は以下の通りです。
①まず自分の課税対象額が1〜6のどの表に当てはまるかを確認します。
②掛け金を選びます。月額1万円拠出した場合なら一番上の段です。
③効果(軽減)額が実際の節税効果の金額です。
- 課税所得金額が195万円以下の場合(税率5%)
掛金額(月額) 効果(軽減)額 10,000円 × 12ヶ月 × 5% = 6,000円 23,000円 × 12ヶ月 × 5% = 13,800円 25,500円 × 12ヶ月 × 5% = 15,300円 51,000円 × 12ヶ月 × 5% = 30,600円 68,000円 × 12ヶ月 × 5% = 40,800円 - 課税所得金額が195万円超330万円以下の場合(税率10%)
掛金額(月額) 効果(軽減)額 10,000円 × 12ヶ月 × 10% = 12,000円 23,000円 × 12ヶ月 × 10% = 27,600円 25,500円 × 12ヶ月 × 10% = 30,600円 51,000円 × 12ヶ月 × 10% = 61,200円 68,000円 × 12ヶ月 × 10% = 81,600円 - 課税所得金額が330万円超695万円以下の場合(税率20%)
掛金額(月額) 効果(軽減)額 10,000円 × 12ヶ月 × 20% = 24,000円 23,000円 × 12ヶ月 × 20% = 55,200円 25,500円 × 12ヶ月 × 20% = 61,200円 51,000円 × 12ヶ月 × 20% = 122,400円 68,000円 × 12ヶ月 × 20% = 163,200円 - 課税所得金額が695万円超900万円以下の場合(税率23%)
掛金額(月額) 効果(軽減)額 10,000円 × 12ヶ月 × 23% = 27,600円 23,000円 × 12ヶ月 × 23% = 63,480円 25,500円 × 12ヶ月 × 23% = 70,380円 51,000円 × 12ヶ月 × 23% = 140,760円 68,000円 × 12ヶ月 × 23% = 187,680円 - 課税所得金額が900万円超1,800万円以下の場合(税率33%)
掛金額(月額) 効果(軽減)額 10,000円 × 12ヶ月 × 33% = 39,600円 23,000円 × 12ヶ月 × 33% = 91,080円 25,500円 × 12ヶ月 × 33% = 100,980円 51,000円 × 12ヶ月 × 33% = 201,960円 68,000円 × 12ヶ月 × 33% = 269,280円 - 課税所得金額が1,800万円超の場合(税率40%)
掛金額(月額) 効果(軽減)額 10,000円 × 12ヶ月 × 40% = 48,000円 23,000円 × 12ヶ月 × 40% = 110,400円 25,500円 × 12ヶ月 × 40% = 122,400円 51,000円 × 12ヶ月 × 40% = 244,800円 68,000円 × 12ヶ月 × 40% = 326,400円
いかがでしたでしょうか?
会社員の場合ですと、23,000円/月が上限ですが運用益とは別に還付があると考えればメリットになる可能性があります。検討する価値はありそうですね。